隠れ家なのに、どこよりも開かれた場所
仕事も肩書きも忘れて語り合う時間
入口は静かに、でも中に一歩入れば広がるあたたかな光と笑い声。会員制レストランで繰り広げられるのは、仕事も肩書きも忘れて語り合う時間。今回は、そんな場所を「自分のホームのように使っている」と話すEさんに、そのリアルな使い方と、ここでしか味わえない“心の解放感”について語っていただきました。対談のホストは、この場所を手がけるオーナー。料理や空間づくりの裏側にも、丁寧に触れていきます。
「まさか、こんなところに?」その“違和感”が面白かった
A/初めて来たのは、経営者仲間の会に誘われたときで……場所がまず謎すぎて(笑)。“本当にここで合ってるの?”って半信半疑でドア開けたら、いきなり世界が広がる感じで驚きました。
--外からのギャップ、よく言われます(笑)。エントランスからは想像できない空間にしたかったんです。部屋に入った瞬間、「えっ」て声が出るのが、実はちょっとした快感でもあります。
A/しかも空間がすごく整っていて、自然とリラックスできるんですよ。仕事モードがすっと抜ける感じ。あれって、空間だけじゃなくてスタッフさんの空気感とか、料理の出し方とか、全部が噛み合ってるからなんだろうなって思いました。
--そう言ってもらえるのが一番嬉しいですね。音楽や照明の明るさも、時間帯やゲストに合わせて微調整していて、“五感のバランス”を整えるのが僕たちの役目なんです。
たとえば夜は照明を少し落として、会話のテンションを落ち着かせるように演出しています。逆にランチタイムは自然光を活かして、開放感を引き立てる工夫もしているんですよ。
空間の広さ以上に“空気の質”をどう作るか。そこに一番時間をかけて設計したんです。
何気ない会話が、一番価値ある時間になる
——このお店って、会話のトーンがいい意味でゆるいですよね。ガチガチのビジネストークじゃなくて、趣味とか家族とか、何気ない話が自然にできる場所というか。
A/わかります。最初だけ名刺交換することもあるけど、気づいたら「この前どこ行った?」とか「どこのワインが美味しかった?」みたいな話になってる。肩書きとか抜きにして“人”として関われるから、仲良くなるスピードが早い。
——ここでは「誰と何を食べるか」が一番大事って思っていて。だから自然と会話のテンションもフラットになる。誰が隣に座っても構えなくていい、そんな空気づくりを意識しています。
A/この前なんて、初対面の人とお酒の好みで盛り上がって、気づいたら2次会に行ってたんですよ(笑)。会話が途切れないんです、ここ。
——無理に会話を続けようとしなくても、料理の話題とか、空間そのものがきっかけになってくれる。だから“気まずさ”が生まれにくいんです。
一緒に食べて、一緒に笑えば、自然と距離は縮まりますからね。そういう関係性が、長く続くご縁に変わることも多いです。
酒好きの心をくすぐる、自由さとクオリティ
A/あと、やっぱりお酒。ドリンクが持ち込みOKっていうのも最高ですよ。昨日も15万円のワインを16万円で飲めて(笑)。外だと出すのにちょっと躊躇するようなボトルでも、ここなら気軽に開けられる。
--飲みたいものが飲めて、しかも空間もくつろげる。お酒が好きな人にとっては最高の環境ですよね。
A/しかもノンアルのラインナップも充実してるのがありがたい。飲みたくない日もあるし、運転ある人もいるし。気が利くな〜って毎回思います。
--実はノンアルにもかなりこだわってるんです。静岡出身だから、お茶も選び抜いてますし、ワイングラスで飲めるクラフトノンアルっていうのも、新しい体験になればいいなと。
ワイン好きな人が「今日は飲めない」ってときでも、テンションが落ちないようにしたくて。香りや色、グラスの質感まで“お酒に近い楽しさ”を演出してます。
飲まなくても“飲んでる気分”になれる、そんな仕掛けがあると、より多くの人がこの場所を楽しめると思うんです。
“自分だけの空間”みたいに使える自由度
A/僕、貸し切ってイベントしたこともあるんですけど、何がいいって“時間を気にしなくていい”ことなんですよ。普通の店って2時間で出てくださいとかあるじゃないですか。でもここは3時間でも4時間でも、誰にも急かされない。
--1日を通して“居続けられる”空間って、実はありそうでなかなかないですよね。
A/この前なんて、食事してそのままバータイム突入して、気づいたら4時間いたこともあります(笑)。でも誰も気にしないし、むしろその時間が“記憶に残る夜”になるんですよ。
--お子さん連れの家族会や、20歳の誕生日に生まれ年のワインを3本揃えてほしい、なんてリクエストにもお応えしています。要望があるほど、こちらも張り切っちゃいますね
「こういうのできますか?」って聞かれるのが嬉しいんです。制限が少ないからこそ、アイデア次第でどんどん面白い使い方ができるんですよ。
イベントも、記念日も、気まぐれな夜も。どんなシーンにも応えられるのが、この店の“余白”の強さだと思っています。
一言で言うなら、“隠れ家以上、社交場未満”
——この場所を一言で表すとしたら?
A/言葉にするの難しいけど…“隠れ家”って言葉だけだと足りないんですよね。なんていうか、静かなんだけど、ちゃんと人と繋がれる。かといって“社交場”みたいにキメすぎてない
-- たしかに、肩肘張らずにいられる“ちょうどいい場所”って感じがしますよね。
A/うん、誰かに紹介するときも、「一度来てみなよ」って、つい言いたくなる場所。ちょっと教えたくないけど、来た人がまた誰かを連れてきたくなる。そんなお店ですね。
-- 気づいたら“毎月誰かと来てる”みたいな人も多いです(笑)。そんなふうに、自然と広がっていくのがこの場所の魅力かもしれませんね。
本当の“隠れ家”って、きっと「自分の中で秘密にしておきたい」と同時に「大事な人にこそ教えたい」っていう気持ちが共存してる。そういう感覚に寄り添える場所でありたいと思っています。
この場所を通して生まれる出会いや物語が、また誰かの明日を少しだけ豊かにしてくれたら、料理人としてこれ以上嬉しいことはありませんね。